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中期銅版画(2)ジョルジュ・バタイユ『眼球譚』ほか

71977年に生田耕作が奢灞都館から刊行したバタイユの『眼球譚』も、山本が挿画を手がけ、エッチング11点を提供した。山本の版画作品の中でもっとも有名なこの連作は1971年から1975年頃にかけての長いスパンでじっくりと進められていった。 シリーズ最初期に制作された《マルセルとシモーヌ》は、先行する《標的A》や『大天使のように』表紙絵と同様の、女体と同心円を組み合わせた構図が用いられている。ここでは物語の場面を逐語的に描写するのではなく、眼球=生殖器=玉子という『眼球譚』のライトモチーフがシンボリックに表現されている。 一方、表紙に使われた《眼球》では、《マルセルとシモーヌ》と同様に眼球=生殖器=玉子の連結イメージが中央に置かれていて、従来の様式が色濃く残っているように見えるが、周囲にはこの小説の具体的場面が散りばめられている。それ以外の作品の多くも、テキストの各場面に忠実な描写がなされている。 1970年代に入って生田耕作との共同作業に取り組んだ山本は、その後も書物や文学作品とリンクした制作活動を続ける。吉田一穂詩集『白鳥』のために提供した3点の銅版画では、1969年前後の一連の作品と同様に有機的な形態と幾何学的な図形を組み合わせたモチーフが描かれているが、かつての暗欝さよりは清澄さが勝っており、後期作品へとつながる過渡的作品とみなすことができる。
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© 2025 Mutsumi Yamamoto

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