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蔵書票等小品

1970年代半ば以降、山本の銅版画の作風に大きな転換点が訪れる。晦渋なシュルレアリスム的傾向は影をひそめ、表現の主眼が平明な人物の描写へと移行する。 題材として取り上げられたのは、裸で抱き合う女たちや、男性器を備えた両性具有者といったエロティックな女性像である。前者としては、ヴェルレーヌの第二詩集『女友達』に想を得たと思しき1974年の《女友達》、後者の例では、1976年の《天使》、1979年の《百合の花を持つヘルマフロディトゥス》が挙げられる。 以後、山本の銅版画はますます洗練の度合いを深めていき、《ニンフの森》、《ペレアスとメリザンド》、《女とスフィンクス》、《城》などで描線の精緻さと画面の華麗さは頂点に到達した。例えば、『眼球譚』飾画のリメイクである《城》を旧作と比べると、この時期の特徴が一層際立つ。両作品の構図はよく似ているが、73年版がテキストの不穏な雰囲気を伝えるのに対し、均質に磨き上げられた79年版は、時が静止したかのような透明な抒情をたたえている。  その後、1980年代に入ると、山本は油彩画の制作に没頭し、銅版画をほとんど発表しなくなります。彼が銅版画に回帰したのは晩年となった90年代で、《ノスタルジィ》や《死の舞踏》など僅かな作例を数えるのみである。メメント・モリを主題にしたこれらの作品では、70年代後半に到達した華麗な装飾性が後退し、抑制された描線による簡潔さを認めることができる。そこに、晩年の諦念を見ることも可能かもしれない。
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© 2025 Mutsumi Yamamoto

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